『香をかぎ得るのは、香を焚き出した瞬間に限るごとく、酒を味わうのは、酒を飲み始めた刹那にあるごとく、恋の衝動にもこういう際どい一点が、時間の上に存在しているとしか思われないのです。夏目漱石
『こころ』(新潮社)』
私は、酒とはほぼ無縁の生活をしていますので、酒の魅力には、ほとんど疎いです。
でも、コーヒーも挽きたての香りが最高だと思います。
コーヒーの楽しみ方で、美味しさを後押ししてくれるステップではないでしょうか?
その後の飲み始めの一口は、今日のコーヒーとの出会いの瞬間です。
香りと味、そして、揺さぶられるのは、その人の情動です。
それは、舌で感じる味だけではなくて、心に感動を呼び起こすのです。
人によって魅力を感じる対象に違いがあると思いますが、「あー、いい香りだ」と感じる瞬間があります。
でも、感性は千差万別ですから、好みの範疇ですね。
最近は、苦手な香りによる「香害」という社会問題もクローズアップされてきていますから、お互いに苦手なモノを認識する必要がありますね。
このフレーズには、夏目漱石ならではの「恋」の描写があるように感じます。
かつて、結婚の会見に及んだ歌手が、「ビビッときました。」なんて言っていたのを思い出します。
相手の魅力が、光を放つ瞬間をこのように描くのですね。
「こころ」の結末は、何とも言えないやるせなさが漂うのですが、このフレーズにある瞬間は多くの人の共感を呼んでいるのでしょう。
その瞬間の光は、衝撃を与え、動かしがたい現状をも動かしてしまうほどのエネルギーを引き出してしまうのかも知れませんね。
誰も、不幸を味わうことがなければ良いのですが、人間は与えられている身体も心も一つですので、リスクをわきまえながら、落としどころを探る事になりますね。
その光が、幸せを運んでくれることを願うばかりです。
よい香りを自分の味方につけたいと考えています。
夏目 漱石(なつめ そうせき、1867年2月9日〈慶応3年1月5日〉 - 1916年〈大正5年〉12月9日)は、日本の教師・小説家・評論家・英文学者・俳人。
本名:夏目 金之助(なつめ きんのすけ)。俳号は愚陀仏。明治末期から大正初期にかけて活躍し、今日に通用する言文一致の現代書き言葉を作った近代日本文学の文豪のうちの一人。